1.事業ドメインとは
■事業ドメインはなぜ必要なのか
事業ドメインとは事業活動を行う領域のことです。企業に事業ドメインが必要な理由は、活動する事業分野を規定することで無謀な多角化を抑制し、事業展開の方向を指示することで経営資源と社員のベクトルを同じ方向へ集中させることにあります。NECがC&C(コンピュータとコミュニケ−ション)を事業ドメインとしたことで、従来の通信事業からコンピュータや半導体事業へ進出し成功したことは有名です。
■広すぎる事業ドメインはダメ
企業は単一の事業だけで成長を続けることは不可能なので、量的拡大のために多角化は避けて通れません。その際、事業ドメインが定められていなかったり幅が広すぎたりすると、自社の競争能力や経営資源を超えた無謀な多角化が行われてしまう危険性が生じます。そこであらかじめ事業ドメインを設定し、そこから外れる事業には参入しないと決めておけば無謀な拡張を回避することが可能になります。
■ただし、狭すぎてもダメ
ただし、事業ドメインをあまりにも狭く設定すると事業展開に制約が生じ、失敗することもあります。これを「マーケティングの近視眼」といいます。有名な例は1950年代の米国での鉄道産業の斜陽化です。鉄道会社は自らの事業ドメインを「鉄道事業」と定めていたため、航空機、乗用車、トラックなどの輸送に進出することなくそれらとの競争に敗れ衰退していきました。結果論ですが、鉄道会社がドメインを「輸送事業」としていれば鉄道以外の輸送事業に参入していたかもしれません。
2.事業ドメインの要件
■よい事業ドメインとは
このように、事業ドメインは広すぎても、狭すぎてもダメです。また、事業ドメインは現在の事業だけではなく、将来(3年〜5年後)の事業展開の方向性も示さなければいけません。よい事業ドメインとは以下を満たしていることが必要です。
・適度な広がりを持っていること(広すぎず、狭すぎず)
・将来の事業展開の方向を視野に入れたものであること
■事業ドメインの3つの定義軸
事業ドメインを定義するにあたって、最も伝統的なものは商品軸による定義です。これは下記のように自社が提供する製品・サービスによって事業ドメインを示します。
「自動車部品事業」(自動車部品メーカ)
「金融サービス業」(金融機関)
この商品軸による定義は事業内容がわかりやすい反面、他社との違いや事業展開の方向性がまったくわかりません。そのため、ドメインの拡張軸と呼ばれる顧客(市場)軸、技術軸、機能軸の3つの軸によって他社との差別化や事業展開の方向性を定義することが提唱され、現在最も代表的なものとなっています。
事業ドメインの3つの拡張軸
@顧客(市場)軸 |
WHO |
誰(どの市場)に対して事業を行うのか |
@技術軸 |
HOW |
どのような技術・ノウハウを活用して事業を行うのか |
B機能軸 |
WHAT |
どのような機能(価値)を顧客に提供する事業なのか |
@顧客(市場)軸
ターゲットとする顧客(市場)を示します。
「沿線住民への生活サービス」(鉄道会社)
「富裕層を対象とした金融サービス」(金融機関)
A技術軸
自社が保有する技術・ノウハウを示します。
「バイオテクノロジーによる新薬の開発」(製薬会社)
「光学技術を軸とした事業」(光学機器メーカ)
B機能軸
自社が提供する機能(価値)を示します。
「女性の美と健康に関する事業」(エステ運営会社)
「快適なオフィス環境の提供」(事務機メーカ)
■3つの定義軸とコア・コンピタンスの関係
この3つの軸とコア・コンピタンスには密接な関係があります。コア・コンピタンスとは「顧客価値(顧客が認める価値)を創出する独自の技術、スキル、ノウハウの組み合わせ」と定義されますが、「顧客価値」は事業ドメインにおける「機能軸」に、「独自の技術、スキル、ノウハウ」は「技術軸」にそれぞれ該当します。また、コア・コンピタンスを発揮するには適合した顧客・市場が必要ですがそれが顧客軸になります。つまり、コア・コンピタンスが明確になれば、下表のように事業ドメインもおのずから確定することになります。
顧客(市場)軸 |
コア・コンピタンスが発揮できる顧客(市場) |
技術軸 |
コア・コンピタンスとなる技術、スキル、ノウハウ |
機能軸 |
コア・コンピタンスが創出する顧客価値(顧客が認める価値) |
なお、実際の3つの軸とコア・コンピタンスに基づく3軸に大きな差異がある場合、コア・コンピタンスが十分に活用されていないと考えられます。
3.事業ドメインの設定方法
事業ドメイン設定のプロセスは以下のとおりです。なお、所要時間は集中して行った場合の目処(事前作業を除く)として考えてください。
ステップ1 |
現在事業のポジション
および
現在の事業ドメイン3軸の確認 |
8時間 |
ステップ2 |
将来事業の方向性
および
将来の事業ドメイン3軸の検討 |
8時間 |
ステップ3 |
現在と将来の3軸の整合性検討
および
他社のベンチマーキング |
8時間 |
@ステップ1は、現在事業のポジションおよび現在事業のドメイン3軸を確認します。
Aステップ2は、事業展開の方向性および将来の事業ドメイン3軸を検討します。
Bステップ3は、現在と将来の3軸の整合性検討と他社の3軸との比較検討を行います。
Cステップ4は、社内外に発表する事業ドメイン案を作成します。
Dそして最終的に取締役会で決定します。
■ステップ1
現在(既存)事業のポジションおよび現在の事業ドメイン3軸の確認
ステップ1は以下の方法により、現在行っている事業の方向性と現在の事業ドメインの3軸を確認します・・・
続きは
PDF版をご覧ください。
無料のサマリー版も用意しています。ご利用ください。
■スポンサーリンク